大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成5年(ワ)1519号 判決 1996年5月30日

原告

山本裕貴

ほか二名

被告

東洋タクシー株式会社

主文

一  被告は、原告山本裕貴に対し金一〇八三万五二八六円、原告山本千賀子に対し金五四万一一一九円、原告山本晃に対し金四九万九八五一円及びこれらに対する平成四年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告山本裕貴(以下「原告裕貴」という。)に対し二四六〇万九六三三円、原告山本千賀子(以下「原告千賀子」という。)に対し九一万一一一九円、原告山本晃(以下「原告晃」という。)に対し六五万九八五一円及びこれらに対する平成四年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

左記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成四年八月三〇日午後〇時五五分ころ

(二) 発生場所 神戸市兵庫区神田町一一番一〇号先道路(以下「本件道路」という。)

(三) 加害車 訴外松山輝明(以下「松山」という。)運転の普通乗用自動車

(四) 被害車 原告晃運転の普通乗用自動車

(五) 態様 松山が加害車を運転して本件道路上を進行中、停車中の原告晃運転の被害車に追突し、その衝撃により同車をさらに自動車に衝突させ、原告らに傷害を負わせた。

2  責任原因

被告は、加害車を所有し、松山を使用していたところ、同人が加害車を運転して被告の業務を執行中本件事故を惹起させたのであるから、自賠法三条及び民法七一五条に基づき本件事故により原告らが受けた損害を賠償すべき義務がある。

3  原告らの傷害及び治療経過等

(一) 原告裕貴

頭部外傷Ⅲ型、頭蓋陥没骨折、外傷性クモ膜下出血、急性硬膜外血腫、斜視等の各傷害を受け、神戸市立中央市民病院(以下「神戸市民病院」という。)において二一日間昏睡状態が続き、平成四年八月三〇日から同年一〇月一一日までの四三日間入院治療を受け、その後同病院において抗けいれん剤の投与を受けながら平成六年二月一七日まで通院治療を受けた(実治療日数二八日)。

平成七年七月二七日、本件事故に基づく外傷性てんかんを発症し、明石市民病院に入院し、翌日より神戸市民病院に転院し、同年八月二日までの七日間入院治療を受けた。

本件事故により、頭蓋陥没骨折、斜視という外形的後遺障害に加え、脳波に異常が見られ、抗けいれん剤の投与が一生必要な外傷性てんかんの症状を呈しており、自賠法施行令二条別表後遺障害等級表の後遺障害等級第九級(以下「何級」とのみ略称する。)に該当する。

(二) 原告千賀子

頸椎捻挫の傷害を受け、神戸市民病院において平成四年八月三一日から同年一〇月五日までの間通院治療を受けた(実治療日数五日)。

(三) 原告晃

頸椎捻挫の傷害を受け、神戸市民病院において平成四年八月三一日から同年九月七日までの間通院治療を受けた(実治療日数二日)。

4  損害

(一) 原告裕貴

(1) 入院付添費(六〇〇〇円×四三日分) 二五万八〇〇〇円

(2) 通院付添費(三〇〇〇円×二一日分) 六万三〇〇〇円

(3) 入院雑費 一一万五二四一円

日額一三〇〇円の四三日分である五万五九〇〇円の入院雑費、簡易ベツド使用料一万七三〇〇円、ベビーふとん及びおねしよパツト購入費四万二〇四一円の合計

(4) 付添人交通費 三六万八一六〇円

ア 父親分として一〇万一二〇〇円(東京と神戸市民病院の往復代が一回二万五三〇〇円で四回分)

イ 母親分として二六万六九六〇円(東京と神戸市民病院の往復代が一回三万九九六〇円〔個室切符利用〕で六回分及び実家と神戸市民病院の往復代が一回一七〇〇円で一六回分の合計)

(5) 逸失利益 一三七六万八二一七円

原告裕貴は、九級の後遺障害に該当するところ、その労働能力喪失率は三五パーセントであり、一歳児に適用される新ホフマン係数が一六・七一六で、平成四年賃金センサスの一八・一九歳の平均年間給与が二三五万三三〇〇円であるから、次の計算式のとおり、一三七六万八二一七円となる。

2,353,300×0.35×16.716=13,768,217

(6) 入通院慰謝料 一四〇万円

(7) 後遺障害慰謝料 六五〇万円

(8) 物的損害 八万一五九四円

ベビーカー代三万五九四七円、チヤイルドシート代二万五六四七円及び衣服代二万円の合計

(9) 弁護士費用 二二五万五四二一円

(二) 原告千賀子

(1) 休業損害 四万二六一九円

平成二年賃金センサスによる三〇ないし三四歳女子労働者の平均年収を基準とし、実治療日数五日を乗じた。

(2) 通院交通費(往復一七〇〇円で五日分) 八五〇〇円

(3) 傷害慰謝料 一六万円

(4) 原告裕貴に関わる慰謝料 五〇万円

(5) 物的損害(衣服代) 二〇万円

(6) 弁護士費用 九万一一一一円

(三) 原告晃

(1) 休業損害 一一万六四五一円

本件事故のため有給休暇をとつた六日間の給与相当分

(2) 通院交通費(往復一七〇〇円で二日分) 三四〇〇円

(3) 傷害慰謝料 四万円

(4) 原告裕貴に関わる慰謝料 五〇万円

(5) 弁護士費用 六万五九八五円

5  よつて、被告に対し、原告裕貴は損害金二四六〇万九六三三円、原告千賀子は損害金九一万一一一九円、原告晃は損害金六五万九八五一円及びこれらに対する本件事故後の平成四年九月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2  請求原因3の事実は不知。

3  請求原因4の各事実はすべて不知。

(一) 但し、原告裕貴の入通院付添費につき、母親の付添を要することは認めるが、付添費は入院一日当たり四〇〇〇円、通院一日当たり二〇〇〇円が相当であり、付添人交通費は右付添費に含まれる。

(二) 原告裕貴の入院雑費につき、ベツド使用料は入院雑費に含まれ、ベビーふとんは病院の用意するもので十分であり、おねしよパツトは治療のために必要なわけではないから、定額を越えた入院雑費については認められない。

(三) 仮に、原告裕貴に外貌の醜状があつたとしても、そのために労働能力を喪失することはなく、更に脳波に異常があつても何らかの神経症状が発現してない限り、後遺障害には該当しない。

予防投薬を要する事情等を慰謝料で考慮することはともかく、労働能力が喪失したとみることはできない。

(四) 原告千賀子及び原告晃の休業損害については、通院実日数につき、一日分全額ではなく、半日分の収入減収とみるのが相当である。

(五) 原告らの通院交通費については公共交通機関で算定すべきであり、タクシー代は相当でない。

(六) 原告千賀子及び原告晃の慰謝料につき、原告裕貴に関わる慰謝料は、死亡に比肩すべき後遺障害が残つたわけではないから認められない。

三  被告の抗弁

1  過失相殺

原告晃は被害車を交差点直近の停車禁止区域に停車させていたために本件事故に遭遇したものであり、同原告及び同原告と経済的一体関係にある原告千賀子、原告裕貴についても、相応の過失相殺がなされるべきである。

2  損益相殺

原告裕貴は、被告から、本件事故につき見舞金として二〇万円を受領した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。

原告晃は、交差点を越えた駐車禁止区域で、両方のウインカーを出しながら停車したところ、衝突されたものであり、右停車と本件事故とは因果関係はなく、原告らには過失がない。

2  抗弁2は認める。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故の発生)及び同2(責任原因)

当事者間に争いがない。

したがつて、被告は、自賠法三条及び民法七一五条に基づき本件事故により原告らが受けた損害について賠償すべき責任がある。

二  請求原因3(原告らの傷害及び治療経過等)

1  原告裕貴

(一)  成立に争いのない甲第一号証の三ないし六、第七ないし第一〇号証、第一二ないし第一四号証、第一五号証の一・二、第一七ないし第一九号証、原告千賀子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一一号証、第一六号証、原告ら主張の写真であることに争いがない検甲第一、第二号証の各一ないし三、第三、第四号証、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 原告裕貴は、本件事故により頭部外傷Ⅲ型、頭蓋陥没骨折、外傷性クモ膜下出血、急性硬膜外血腫、斜視等の各傷害を受け、神戸市民病院において二一日間昏睡状態が続き、平成四年八月三〇日から同年一〇月一一日までの四三日間入院治療を受け、平成五年五月発熱時にけいれんがあり、その後同病院において抗けいれん剤の投与を受けながら平成六年二月一七日まで通院治療を受けた(実治療日数二八日)。

(2) 原告裕貴の代理人は、平成六年五月ころ、自賠責保険に対し、症状が固定し、右前頭骨陥没骨折、脳萎縮の後遺障害が残つたとして後遺障害保険金の請求をした。

これに対し、自賠責保険は、同年一二月、右側頭骨部に陥没骨折は認められるが、鶏卵大以上の欠損或いは手掌大以上の欠損には至らないと判断されるところから、外貌の醜状としての評価は困難であり、また頭部CT上の所見から本件事故による脳内損傷が認められるが、画像上の所見推移でみる限り、現状においては神経障害として一二級一二号以上の障害と考えられるが、経過内容、症状所見内容等から、現時点においては後遺障害の認定は時期尚早であり、非該当であると判断した(甲一三)。

(3) 原告裕貴は、平成七年七月二七日、無熱性のけいれんが三〇分間位続く外傷性てんかんを発症し、明石市民病院に入院し、翌日より神戸市民病院に転院し、同年八月二日までの七日間入院治療を受けた。

(4) その後、原告裕貴の代理人は、再度、自賠責保険に対し、後遺障害保険金の請求をした。

これに対し、自賠責保険は、平成八年一月、経過内容、症状所見内容等から、現状においては後遺障害の認定は時期尚早であり(症状固定の時期は約二年後が目途となる。)、認定困難であると判断した(甲一八)。

(二)  右認定によれば、原告裕貴の傷害及び治療経過は明らかであるが、その後遺障害の内容及び程度は必ずしも明らかではなく、未だ同原告の後遺症の症状は固定していないとみれなくもない。

しかし、原告裕貴は、現在、本件事故の傷害につき通院を継続しているわけではなく、後遺障害の内容につきその経過を見守つている状況であり、少なくとも一二級一二号に該当することは自賠責保険も認めているところであり、当裁判所は、現在、同原告に一二級一二号に該当する後遺障害が残つているが、それより上の後遺障害を認めるに足りる明確な証拠はないと考えるものである。

2  原告千賀子

原本の存在及び成立に争いのない甲第一号証の二、前掲甲第一一号証、原告千賀子本人尋問の結果によれば、原告千賀子は、本件事故により、頸椎捻挫の傷害を負い、平成四年八月三一日から同年一〇月五日までの間、神戸市民病院において通院治療(実治療日数五日)を受けたことが認められる。

3  原告晃

原本の存在及び成立に争いのない甲第一号証の一、前掲甲第一一号証によれば、原告晃は、本件事故により、頸椎捻挫の傷害を負い、平成四年八月三一日から同年九月七日までの間、神戸市民病院において通院治療(実治療日数二日)を受けたことが認められる。

三  請求原因4(損害)

1  原告裕貴の損害

(一)  入院付添費 二五万円

前掲甲第一号証の四・六、第七号証、原告千賀子本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すれば、原告千賀子は、本件事故により、原告裕貴が神戸市民病院及び明石市民病院に入院していた五〇日間、同原告を付添い看護していたことが認められる。

右認定に前記の原告裕貴の受傷内容及び年齢等の諸事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある入院付添費は一日当たり金五〇〇〇円程度とみるのが相当である。

したがつて、相当な入院付添費は頭書金額となる。

(二)  通院付添費 六万三〇〇〇円

前掲甲第一号証の三ないし六、第七ないし第一二号証、原告千賀子本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告裕貴は、本件事故による受傷の治療のため神戸市民病院へ二一日間通院し、その際同原告の両親である原告晃ないしは原告千賀子が付添つたことが認められる。

右認定に原告裕貴の受傷内容及び年齢等の諸事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある通院付添費は一日当たり三〇〇〇円程度とみるのが相当である。

したがつて、相当な通院付添費は頭書金額となる。

(三)  入院雑費 六万五〇〇〇円

原告裕貴が本件事故により合計五〇日間入院したことは前記のとおりであるところ、前記認定によれば、同原告の一日当たりの入院雑費は一三〇〇円が相当であるから、相当な入院雑費は頭書金額となる。

なお、原告らは、右入院雑費の他に、原告裕貴の入院に際し、ベビーふとん及びおねしよパツトの購入費用及び原告裕貴の看護のために使用した簡易ベツド使用料を入院雑費として請求するが、ベビーふとんは、通常、入院先の病院の用意するもので十分であり、おねしよパツトは、幼児であれば入院しているか否かにかかわらず必要であると考えられ、簡易ベツドの使用が必ずしも必要であるか否か疑問であり、一日当たり一三〇〇円を越えた費用については、本件事故と相当因果関係にある損害とは認められない。

(四)  付添人交通費 二〇万円

前掲甲第一一号証、原告千賀子本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告裕貴の付添看護のため、原告千賀子は、個室切符を利用して自宅と神戸市民病院を六回往復し、同原告の実家と同病院を一六回往復し、その交通費として合計二六万六九六〇円を支出し、原告晃は、エコノミー切符を利用して自宅と同病院を四回往復し、その交通費として合計一〇万一二〇〇円を支出したこと、原告千賀子の実家が神戸市内にあり、本件事故はその里帰り中の事故であり、原告裕貴の傷害の内容、程度及び年齢等から、同原告は引き続き神戸市民病院等で治療を受けたことが認められる。

以上の認定によれば、原告らの住所と原告裕貴が入通院していた神戸市民病院までの距離は遠距離であるところ、同病院での通院治療の継続及び原告千賀子の個室切符の利用が相当か疑問であるが、原告裕貴の傷害の内容、程度及び年齢等の諸事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある付添人交通費は二〇万円程度とみるのが相当である。

(五)  逸失利益 五五〇万七二八六円

本件事故により、原告裕貴が少なくとも一二級一二号の後遺障害が残つていることは前記認定のとおりであるから、同原告は、一八歳から六七歳に達するまでの四九年間、一四パーセントの労働能力を喪失し、平成四年賃金センサスの一八・一九歳の平均年間給与の二三五万三三〇〇円の一四パーセントの減収が継続するとみるのが相当である。

そこで、ホフマン式計算法により中間利息を控除して、原告裕貴の逸失利益の原価を求めると、次のとおり五五〇万七二八六円(円未満切捨て、以下同)となる。

2,353,300×(28.792-12,076)×0.14=5,507.286

(六) 慰謝料 四〇〇万円

原告裕貴の傷害及び後遺障害の内容、程度、入通院期間その他本件に現れた一切の諸事情を総合考慮すると、同原告が本件事故によつて受けた精神的慰謝料は頭書金額をもつて相当とする。

(七) 物的損害 五万円

前掲甲第一一号証、原告千賀子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨並びにこれらにより真正に成立したものと認められる甲第五、第六号証によれば、本件事故により、原告裕貴のベビーカー、チヤイルドシート及び衣服が損傷したこと、そのため本件事故後、同原告ベビーカー及びチヤイルドシートを合計六万一五九四円で購入したことが認められる。

右認定に諸般の諸事情を考慮のうえ、原告裕貴の本件事故当時における右ベビーカー、チヤイルドシート及び衣服の相当価格は金5万円程度とみるのが相当である。

(八) 右損害合計額 一〇一三万五二八六円

2  原告千賀子

(一)  休業損害 四万二六一九円

前掲甲第一一号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一号証の二、原告千賀子本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告千賀子(昭和三三年八月二五日生)は、本件事故により、頸椎捻挫の傷害を負い、神戸市民病院において五日間通院治療を受けたことが認められる。

右認定によれば、原告千賀子は、本件事故により、五日間休業を余儀なくされたとみるのが相当であり、平成二年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・女子労働者・学歴計の年令三〇ないし三四歳の年収額三一一万一二〇〇円を基礎にすると、その休業損害は次のとおり頭書金額となる。

3,111,200×5÷365=42,619

(二) 通院交通費 八五〇〇円

右(一)掲記の各証拠によれば、原告千賀子は、神戸市民病院への通院に公共交通機関を利用し、一往復に一七〇〇円を要し、合計八五〇〇円を支出したことが認められる。

右認定によれば、右は相当な損害として是認できる。

(三) 固有の慰謝料 一〇万円

原告千賀子の傷害の内容、程度、通院期間その他本件に現れた一切の諸事情を総合考慮すると、同原告が本件事故によつて受けた精神的慰謝料は頭書金額をもつて相当とする。

(四) 原告裕貴にかかわる慰謝料 三〇万円

原告裕貴の前記傷害及び後遺障害の内容、程度等から、原告千賀子は、原告裕貴が生命を害された場合にも比肩すべき精神的苦痛を受けたとみるのが相当である。

したがつて、原告千賀子の原告裕貴に関わる慰謝料の請求は理由があり、その他諸般の事情を斟酌のうえ、頭書金額をもつて相当する。

(五) 物的損害 五万円

前掲甲第一一号証、原告千賀子本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告千賀子は、本件事故当時被害者車両のトランク内に同原告所有の衣服を入れていたが、本件事故によりそれらが破損し使用不能になつたことがうかがわれる。

本件全証拠によつても、右衣服の相当な価値は必ずしも明確ではないが、前記の原告千賀子が里帰り中であつたことなどから、少なくとも五万円は下らないというべきである。

(六) 右損害合計金額 五〇万一一一九円

3  原告晃

(一)  休業損害 一一万六四五一円

成立に争いのない甲第二号証、前掲甲第一一号証、原告千賀子本人尋問の結果を総合すれば、原告晃は、本件事故により、同原告自身の治療及び原告裕貴の看護のため、有給休暇を六日間取つたこと、原告晃の本件事故前三か月間(合計六二日間)の給与合計が一二〇万三三三三円であることが認められる。

原告晃の右有給休暇分は休業損害とみるのが相当であるから、同原告の休業損害は次のとおり頭書金額となる。

1,203,333÷62×6=116,451

(二) 通院交通費 三四〇〇円

右(一)掲記の各証拠によれば、原告晃は、神戸市民病院への通院に公共交通機関を利用し、一往復に一七〇〇円を要し、合計三四〇〇円を支出したことが認められる。

右認定によれば、右は相当な損害として是認できる。

(三) 固有の慰謝料 四万円

原告晃の傷害の内容、程度、通院期間その他本件に現れた一切の諸事情を総合考慮すると、同原告が本件事故によつて受けた精神的慰謝料は頭書金額をもつて相当とする。

(四) 原告裕貴にかかわる慰謝料 三〇万円

原告裕貴の前記傷害及び後遺障害の内容、程度等から、原告晃は、原告裕貴が生命を害された場合にも比肩すべき精神的苦痛を受けたとみるのが相当である。

したがつて、原告晃の原告裕貴に関わる慰謝料の請求は理由があり、その他諸般の事情を斟酌のうえ、頭書金額をもつて相当する。

(五) 右損害合計額 四五万九八五一円

四  抗弁等

1  過失相殺

(一)  前掲甲第一一号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証、原告千賀子本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 原告晃は、本件事故直前、被害車を運転して西進し、原告裕貴のおむつを替えるため、同車を横断歩道の側端から約二・七メートル西側に離れた場所に両方のウインカーを出して停車した。右停車位置は、南側の歩道に接しており、その右側を通行する後続車両に相当の余裕があつた。

その直後、被害車は、暴走して来た加害車に追突され、約二六メートル前方に飛ばされて停止した。

(2) 松山は、本件事故直前、加害車を運転して西進中、突然、心臓発作を起こし、同車を相当の高速で暴走させ、まず被害車に追突し、さらにバスや対向車線の二台の自動車に衝突して停車した。

(二)  右認定によれば、原告晃は、本件事故当時、横断歩道の側端から五メートル以内に停車させていたから、駐停車禁止の違反があるといわざるをえないが、本件は、松山の暴走行為に基づく一方的な過失に基づく事故というべきである。原告晃の右過失と本件事故との間に相当因果関係はないというべきである。

したがつて、被告の過失相殺の抗弁は採用できない。

2  損益相殺

原告裕貴が本件事故につき被告から見舞金として二〇万円を受領したことは、当事者間に争いがないので、右金額を前記原告裕貴の損害合計額より控除すると、その残額は九九三万五二八六円となる。

3  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告裕貴は、原告千賀子及び原告晃は、本件訴訟の提起及び遂行を原告ら訴訟代理人らに委任し、右代理人らに対して相当額の報酬の負担を約したことが認められるところ、本件事案の内容、訴訟の経過及び認容額その他諸般の事情に照らすと、原告裕貴が弁護士費用として被告に求めうるのは九〇万円、原告千賀子及び原告晃のそれは各四万円とそれぞれ認めるのが相当である。

五  結論

そうすると、原告らの請求は、原告裕貴につき一〇八三万五二八六円、原告千賀子につき五四万一一一九円、原告晃につき四九万九八五一円及びこれらに対する本件事故後の平成四年九月一日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 横田勝年)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例